2009年04月13日
火の粉/雫井脩介
ー秋深き隣は何をするひとぞー
判事、梶間勲の出した判決は無罪。
その裁判から2年後、元容疑者の武内が偶然に梶間の隣家に越してきた。
恩を感じている武内は梶間家に不自然なほどの親切を振りまきながら介入してく・・・。
梶間の嫁、尋恵とその息子の嫁、雪見の視点からの物語。
尋恵と雪見から見える武内像が異なり、尋恵は誰にもわかってもらえない自分の苦労を労わってくれる親切な武内に心を許し、それを知りながらも雪見は漠然と武内の不気味な雰囲気を感じ取る。
危険だとどんなに叫んでも誰にも伝わらない、それどころかその所為で自分が窮地に陥ってしまう。
事件の遺族である池本が絡んでくるあたりから、武内に対して感じている疑惑もあやふやになってしまう。
被害者の遺族は必死だ。
必死だからこそゆえだろう、冷静さを欠き、感情論で罵倒するものだから、これまた、武内にしてやられてしまう。
こっちまで池本が実は犯人なのじゃないかとちょっと、悩んでしまった。
介護や育児、嫁姑問題がやけにリアリティで、その間に武内がジワジワと得体の知れない恐怖となって織り込まれてくるのが怖かったですね。
それでも、家族間で亀裂が生じても嫁と姑がお互いに信じあっているのが、良かった。
よくある嫁姑の確執で描かれていたら、武内に完全に掌握されていたかもしれない。
いやはや、それにしてもホラーです。
鬱陶しい親切を拒絶するか、受け入れるか。
一人の親切な人が一家に介入するだけで、ゆっくりと歯車が狂い始める・・・
全く他人事じゃありません。
文句なしに面白かったです。
「私は殺人鬼を解き放ってしまったのか?」
タイトル「火の粉」の意味が分かるのは、文中の後半に入る当たりから。
星★★★★☆です。
Posted by いくモグロ at 10:31│Comments(0)
│雫井脩介